第弐話・拮抗
−月華の剣士インターネットノベル−

1999/01/07 - 1999/08/11
http://www.bluemoon4u.com/novels/mirror2_2.html

楓は少し息を切らせながら、辺りをくまなく見回しながら跡を追う。雪降る中とはいえ、あれだけ目立つ格好をしているのだ。捜し出すのに苦労するようには──

(──いた!)

視界に、あの深緑と赤のコントラストが飛び込んだ途端、楓は反射的にその背に叫んでいた。

「兄さん!!」

楓の呼びかけに、守矢の足が止まる。振り返りはしないが。

「やっと……見つけた。兄さん、答えてくれ。何故……お師さんを──」

息切れと様々な想いで、途切れ途切れになる楓の言葉を──しかし守矢は、肩越しに一瞥くれてあっさりと遮った。

「お前に話すことなど無い。失せろ」

「兄さん!」

楓の声も無視して、守矢はまた歩き出す。楓は奥歯を軋らせ、素手の方の手を真横に振り上げた。そして珍しく、声を荒げる。

「何故、何故何も話してくれないんだ! 兄さんは、いつもそうやって──!」

「……楓──」

半ば自棄になる楓の言葉を、再度立ち止まった守矢の呼びかけが遮る。ただ、名を呼ばれただけなのに、楓は怯えたかのように微かに身を堅くし、息を呑んだ。振り向く事無く、守矢は続ける。

「私は今夜、この村の西に有る竹林にいる。お前が何か知りたいのであれば……来るがいい。無論、命が惜しくば逃げても構わん」

「…………」

兄の誘いに、楓は──兄に見えるわけが無いが──無言で頷いた。恐らく刃を交えることになるだろう。兄は、それを想定してそのような場所を選んだに違いない。そんな形でしか、今の二人は『想い』を交わすことができなかった。

(逃げる……ものか!)

そのまま、自分の前から去っていく兄の背をずっと見届けながら、楓は心に固く誓った。

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