第八話・胎動
−月華の剣士インターネットノベル−

1999/11/13 - 2000/01/10
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確実に首筋を狙った突きを、『楓』は余裕で頭部を逸らして躱す。が、嘉神はそれを読んでいたらしく突いた刀身をそのまま横に払った! 『楓』の首が血を噴く──寸前に、『楓』はわりとあっさりその身を屈めて、刀を構えて大きく跳び上がる。

「ぃやあっ!!」

バジィッ!

守矢の時と同じように──それに合わせ、閃光が嘉神を撃った。『青龍』の象徴たる蒼の稲妻をまともに食らい、さすがの嘉神も顔を歪める。

「はっ!」

未だ帯電の残る中、『楓』は着地ざまに刀を横一文字に切り払った。嘉神が即座に避けようとするも、その胸板辺りに朱色の線が走る──!

「何!?」

「連刃斬!」

それを確認する間も無く、『楓』は突っ込んで行きながら嘉神の左肩を刃で打ち、胸板を腹辺りから切り上げ、さらに上半身を横から薙ぐように勢いと片手の力のみで、その体を吹っ飛ばした!

「く──っ!」

落下して地に叩き付けられる寸前、嘉神は片手を地に付けて衝撃を半減させると、それを突き飛ばして後ろに跳んだ。そして器用に身を捻って、立ち直る。

「はあぁっ!!」

「ふん──!」

『楓』はすかさずそれに追いすがり、前方に跳んで宙から斬り込んだ。それを迎え撃たんと、嘉神は頭上に弧を描くように刀を一閃する。

ボオゥッ!

すると、その軌跡をなぞるかのように、虚空から炎が燃え上がった! 無論、飛び込む体勢の『楓』に避けれる暇など──無い。

「げっ!?」

まともにその炎を食らい、『楓』の体は宙を舞ってから絨毯の上を転がる。そして付着した火の粉が消えたところで、ようやく楓は立ち上がった。その服の所々が黒っぽくすすけている。

「危ねー、危ねー。さすがに火だるまは御免だぜ」

「しかし……先程より、手負いである今の方が格段に動きが良いように見える。何故だ?」

その程度で済んでいる事に感嘆したらしく、『楓』の全身を眺めながら嘉神は言った。すると、『楓』は僅かに首を竦めてしれっと言い返す。

「さあて、な!」

それを完全に言い終わる前に、『楓』は体勢を低くして一足飛びに嘉神の目の前に迫った。だが嘉神はその姿を見下ろし、鼻を鳴らしてから刀を振り翳し炎の壁を発生させる。

……ォンッ!

一方、大きく振り上げた『楓』の刀が、微かな大気を軋ませる音と共に薄い蒼の光に包まれた。その刀身に収束した光は見る内に、天井をも貫かんばかりの長さの『刃』を成していく。

「『青龍』の……蒼雷か!」

「あんたの望み通り、俺の『力』──見せてやるぜ!!」

驚きとも焦りともつかない嘉神の言葉も、燃え盛る炎さえも掻き消すように、『楓』は数倍の長さに増した『刃』を真っ直ぐに嘉神に向かって振り下ろした!

ガオォォンッ!!!

鼓膜を破るかの轟音。床が砕けたか、濛々と舞う黒煙。その中で、『楓』は左腕にまで響く衝撃と足場の揺れになんとか耐える。今のはまともに直撃した筈だ。しかし──。

何時の間にか気付かぬ内に上がっていた呼吸を整えると、『楓』は蒼い光輝の消えた刀をスッと横に退ける。そして、黒煙が消えゆくさまを見届けた。自分の勘が、確かなら……

視界を遮る黒煙が消え去った先に、──元居た場所よりかなり離れた位置で──仰向けでぐったりしたようにあの男が倒れていた。今の衝撃のせいで、意識を失っているのだろうか。

「……おい」

刀を肩に担いでから、『楓』は試しに声を掛けてみる。だが、やっぱりと言うべきか返答どころか、気配の動きすら無い。

『楓』はしばしじっとそのさまを眺めていたが、突然──深々と溜め息を吐いて半眼になった。さらに刀の峰で、軽く肩を叩く。

「──おい、嘉神。見え透いた芝居は止めろよ。俺を怒らせたいのか?」

言葉とは裏腹に、その口調はいつも通りの飄々としたものだった。だがその眼光は、明らかにいつもとは違う──怒気と苛立ちとをはらんでいる。そして、

「……まさか、『青龍の力』をここまで使いこなせるとはな。少々、貴様を見くびっていたか」

今度は間違いなく、『楓』の予想通りの返事があった。しかし今の『刃』をまともに食らった影響か、その声は僅かにしゃがれていた。

「そりゃあ、ご愁傷様。でも、気付くのがちょっとばかし遅かったんじゃねーの?」

危なげながらに立ち上がる嘉神を見据え、『楓』は軽口を叩く。さすがに今のは効いたらしく、嘉神は辛うじて立ち尽くしていた。四肢の痺れが残っているのか、刀を手に引っかけているだけのような感がある。

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