第拾壱話・大勇
−月華の剣士インターネットノベル−

2000/05/05 - 2000/05/12
http://www.bluemoon4u.com/novels/mirror11_1.html

ギッ ギギギギンッ ギゥンッ!

固く澄んだ音が、幾条もの銀光が立て続けに闇を裂く。凄まじい速さで次々に繰り出されるお互いの刃は、それに応じた火花を散らせた。

「疾風ぇっ!」

斬撃の合間を縫うように至近距離から放たれた雷撃を、嘉神は残像すら残して躱す。そして、片手を『楓』に向けて翳し、『楓』の頭を狙って蒼い閃光を放った!

ビゥッ!

頭を撃ち砕かれるかという寸前に、『楓』は紙一重で頭を逸らした。閃光は大気を焼き切って、『楓』の後方にあった壁の残骸を木っ端微塵に吹き飛ばす。

「やっぱり、威力が半端じゃねーな」

その威力に感心してから、不意に『楓』は前方に視線を戻して追撃を掛けようとしていた嘉神の刃と刀身を噛み合わせて受け止めた。──嘉神がそう来る事を、予想していたかのように。

「ほう……『負の力』を受けた筈なのに、覇気も『力』も殺がれてはいない……それどころか、上がっているようだが。まさか、貴様も『負の力』を我が物としたのではあるまいな?」

『負の力』の一撃を受ける以前を遥かに上回る今の『楓』の強さに、嘉神は手に力を込めつつ感嘆と疑問を漏らす。それを聞いて、『楓』はニィッと口の端に笑みを乗せた。

今の『楓』の体力が回復したかのような余裕と、急激な『力』の上昇──それらは確かに、嘉神が『負の力』を解放した時と似ている。だが、

「冗談じゃない、ンなもんこっちから願い下げだぜ」

──負けられない理由がある。そしてそれに対する迷いも躊躇いも、既に無い。

そのお陰で、体力自体は相変わらずほとんど底をついているも、今の彼にはそれを補えるほどの気力があった。それが『楓』の感覚を研ぎ澄まし、『力』をも上げているのだ。

『楓』は噛み合わせていた刀を引いて、横一文字に前方を薙ぐ。だが、『楓』が薙いだのは虚空のみ。そこに嘉神の姿は無かった。

(上か!)

刀を振り切ったままの格好で上空を振り仰ぐ『楓』に、青い炎が迫る。高空から急襲を掛けるように、嘉神が蒼炎を纏った蹴りを放ったのだ。

しかし『楓』は口の端を上げると、刃の切っ先をピタリと嘉神に向け、そして吠えるように叫ぶ。

「『駆けろ』!」

途端、その刀身が一瞬ほのかに蒼く光り、次の瞬間には切っ先の一点に収束した輝きが蒼白い弾丸となって嘉神を迎撃した!

「む……!」

蒼い雷撃に捕らわれて嘉神は僅かに呻くが、空中で体勢を立て直してフワリと後方に降り立つ。一方『楓』は、弾丸の反動を抑え切れずに危なっかしく数歩たたらを踏み、加えてガゴッという音を立てていかにも頑丈そうな柱に頭をぶつけてしまった。

「い!? ててっ……ちょっとばかし『力』が強すぎた……。そう上手くはいかねーか」

『楓』はとうの昔に痛みの麻痺した左手で後頭部を抑え、何やらブツブツと呻く。

それを聞いていた嘉神は、足を地に滑らせるような速さで距離を詰めながら応えた。

「言った筈だ。貴様如き青二才に『青龍の力』を御せる筈が無い、と。  そうでなくとも人という器には、限界が有る。限界を超えようとすれば、破滅を招くのが道理!」

「──俺は……そうは思わねーな!」

それを回避しようと『楓』が膝をたわめて跳ぼうとするのを見て、嘉神は間合いに入る前に左手に携えた刀を振り上げ、大地から斜め前へ炎を吹き上げる。

炎は嘉神を飛び越えるつもりで前方に跳んでいた『楓』を、いともあっさり呑み込んだ。が、

バシィッ!!

何かを引っ叩いたような音がしたかと思うと、『楓』を呑み込んだ筈の炎が派手に砕け散る!

「! 何だと!?」

「ふっ!」

初めてあからさまな動揺を示した嘉神に、炎を突破した『楓』は体勢を直す暇すら与えずに肩口に斬撃を食らわして、その後方に着地する。

次いで嘉神が身を翻す前に、再び軽くしゃがみ込んで高く跳びながら刀を振り上げた。白い外套に赤い線が上下に走り、さらに青白い落雷が怯んだ嘉神を撃つ。

「ぐっ……──舐めるな!」

しかし嘉神は落雷の束縛を破りその場に足を止めると、身を翻しざま上方を薙いだ。刃は狙い澄ましたように宙に居た『楓』を捕らえる。『楓』の腹部に新たな裂傷があぎとを開いた。

「っ!」

僅かならぬ痛みに顔をしかめながらも、『楓』は吹っ飛ばされてそのまま地に叩き付けられるのを避ける為、宙で身を捻って危なげながらなんとか両足で地に付く。

そして息つく暇も無く『楓』は上を振り仰いだ。自分と入れ違うように宙へ跳んだ嘉神の殺気が、一段と膨れ上がるのを感じ取る。

次へ
- 1 -