第拾壱話・大勇
−月華の剣士インターネットノベル−

2000/05/16 - 2000/05/21
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……自分が今、見上げている『楓』の背に一瞬、蒼の「翼」が映ったのは気のせいか?

(まさか、あれが……真の『青龍の力』だというのか……?)

目の前で刀が振り上げられようとしているのが分かっているのに、身体が動かない。動けない。

まるで、その『力』に魅せられてしまったかのように。

実際は一瞬に近い時間だったのだろうが、彼にとっては永遠のように思えた。その身に、『楓』の刃が振り下ろされるまでは。

新たに自分の運命を受け入れた『楓』の強い意志は、今や『青龍の力』を完全に制御できるほどの精神力を生んでいた。

そして『力』は『楓』の意思に従い、その身体を大地の束縛から解放させる。

(行ける!)

体が軽くなるのを感じ取り、『楓』は一気に自分の上空にいた嘉神を見下ろせる高さまで跳んだ。

──いや、むしろ「飛んだ」というべきか。今の彼には、蒼き龍の「翼」があるのだから。

避けられたことが信じられないといった顔で、嘉神がこちらを見上げている。何故かは知らないが、構えようともせずに虚ろな瞳を向けていた。

刹那、疑問が脳裏を掠めるが、気にしている場合ではない。自分に体力の余裕が無い以上、この機会を逃す訳にはいかないのだ。

(頼む……俺に、奴を倒す『力』を!)

嘉神に向かって落下していきながらの『楓』の声は、誰にともなくその胸中でのみ響く。

自分に、神にも通ずる守護の力を与えてくれた、青龍の為に。

自分を、支えてくれている者の為に。

自分を、受け入れてくれたもう一人の自分の為に。

そして、自分自身の「明日」を切り開く為に。

自分は──負ける訳にはいかない!

右手に握り締めた刀の刃に蒼雷が纏われ、異様な重みをもたらす。

これが、自分の宿命の重みなのか。そう思わせるほどの重さだった。

だが同時に今、この刃に無限の『力』が込められているのを『楓』は迷わず確信し、己の全てを託すべく未だ重い左手を柄に添える。続けて、目前まで迫った嘉神に向け、大上段に刀を振りかぶった。

「これで──終わりだ!」

──誰かに死を刻むだけでなく誰かを活かす為にも、この刃はある──

『楓』は、キッと嘉神を睨み据え、喉が張り裂けんばかりに吼えた。

「オオオオォォォッ!!!」

刀が振り下ろされると同時、今までに無いほどの落雷が辺り一帯を純白に染めたかと思うと、今度はそれに応えるように大地側から光の柱が昇り、『門』を暗黒の空ごと貫く。

そして、新たな始まりの為に今──終わりは訪れた。

次へ(第拾弐話・晨明)
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