第弐話・拮抗
−月華の剣士インターネットノベル−

1999/01/07 - 1999/08/11
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気付いたときには、もう遅かった。

新たな一筋の銀光が空を走った瞬間、楓の刀は──手から離れはしなかったものの──大きく弾かれていた。刀を弾いた守矢は、流れるような動作で楓の横を駆け抜けざま、その脇腹を易々と薙ぎ払う!

ザシュッ!

「──っ!」

まともにその一撃を受け、声も無く鮮血を散らしながら吹っ飛ぶ楓。そのまま太い竹に背からぶつかり、一回大きくバウンドする。

「が……っ!」

脇腹の傷とその弾みの勢いに、楓は微かに目を見開いて短く呻いていた。

「どうした、楓。太刀筋が止まって見えるぞ。そんな荒い技では、話にならんな。所詮、貴様の器はその程度か……」

「…………」

守矢の挑発を聞き流し、楓は僅かによろけながら立ち上がって刀を構えた。そして荒い呼吸を繰り返しつつ、前方の兄を睨め付ける。

しかし、その瞳は僅かに曇っていた。楓の胸中をそのまま表すかのように。

(僕は──どうすれば良い……?)

既に闘いの中でありながら、楓の心は迷いに揺れていた。今迄の大振りな攻撃も、それが因の一つと言えた。

(真実を確かめる為に──兄さんに直接聞く為に、ここまで来たのに!)

姉と逢ったときに、自分でそう──決心した筈なのに。しかし、

『──あの人は、なんでも自分一人で抱え込んでしまうから……いつも、私達を巻き込まないように自分を犠牲にしていたから──』

雪の言葉が、今になって再び楓の心に重く響く。姉の言葉を聞くに、兄は全て自分の責としてけりを付けようとしているのだろうか。ならば自分がやろうとしていることは、それに無理矢理干渉しようとしている──ただ邪魔しようとしているだけなのか。自分は……

(それじゃあ、一体僕は何のためにここまで……!?)

──分からない。自分は一体、どうすれば──!

迷いは消えるどころかあっという間に膨れ上がり、楓の心を占めていった。その何とも言い難い苦痛に、思わず楓は堅く目を瞑る。

──と、

『馬鹿野郎、目を開けな!』

(──え……?)

突如、脳裏に響いた声に──言葉の内容ではなく、言葉自体に──触発され、楓は慌てて目を開けた。その目前に、銀の刃が襲い掛かる!

ギンッ!

鋭く重い音を立てて、守矢の刀と咄嗟に翳した楓の刃が拮抗し、微かな火花を散らす。どうやら楓の意識が守矢から逸れていた時間は、一瞬に近かったらしい。

だが、手負いの楓にその勢いを受け止め切れる訳が無く、背後の竹で退くことすらできない。が、

(────)

楓は瞬時に刀を前方に放り、水に飛び込むような格好の前転で、守矢の横をすり抜けた。そしてすり抜けた先で、楓は自分の放った刀を拾い上げる。

先程までの動きからは想像できないほどに、それは実に機敏で的確な動作だった。だがしかし、

(?)

それに疑問を感じたのは、楓自身だった。今の動作をしたのは──『自分じゃない』?

『迷いを持ったまま、あいつを斬れる訳がねえ』

また、先程の『声』が響く。間違いなく、脳裏だけに。

『今のお前じゃ、あいつを倒せない』

(何を──)

『声』の意味の取れない言葉に対し、楓が胸中で問いの言葉を紡ぐ前に──その答えは現れた。

──ドンッ!

「!?」

自分の体に強い衝撃が走り、楓は微かに身を震わせる。今の衝撃は──間違いなく、自分の『体の中』からのものだった。

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