第七話・堕天
−月華の剣士インターネットノベル−

1999/09/02 - 1999/09/20
http://www.bluemoon4u.com/novels/mirror7_3.html

「はっ!」

楓は一気に嘉神との距離を縮めると、素早く刀を振り下ろして切り伏せる! ──が、

「笑わせるな!」

嘲りと共に嘉神は高々と跳んでその攻撃を躱し、さらに宙で身を転じ楓に鋭角に蹴り込んだ。

ガッ!

楓は即座に身を翻し、その蹴りをなんとか刀身で受け止める。だが、

「……っ!」

突然に肩に走った痛みに不意を突かれ、体勢を崩し掛けた楓は仕方なく後方に跳んだ。──「剣聖」と闘ったときの傷に、今の衝撃が響いたらしい。大した事が無いのが、せめてもの救いか。

(くっ……)

思わず胸中で呻いたが、悔やんでいても仕方が無い。楓は嘉神を正眼に構え直す。ちょうどそこに嘉神が、薄い笑みを浮かべたまま言葉を掛けた。

「どうやら、あの剣聖と闘ってすぐにここに来たらしいな。多少は、手傷も負っただろうに。──たとえ手負いでも、私を倒す自信が有る、という事か?」

未だ刀を抜かぬままの嘉神の問いに、楓はしばし黙り込む。まるで言葉を選ぶかの如く。

「別に……僕はそこまで、貴方の力を軽んじているつもりはありません。ただ──なんとなく、今ここに来なければ手遅れになるような、気がした……だけです」

楓は素直に、自分の本心を言った。嘘をついたところで意味は無い。だが、何故に自分がそう思ったのかは、よく分からなかった。自分の中の何かが、そう訴えていたかのように感じたが──。

「そうだな……貴様からすればそれが正解か。だが──」

それを聞いて何故か、思うところが有るらしく嘉神は意味ありげに笑みを濃くする。そして、

「手負いでここに来たというのは、愚かとしか言いようが無いというものだな!」

何時の間にか掲げていた刀を、その一息で前方に抜刀した。遥か間合いの外だ。が、

ボッ!

慌てて上半身を反らした楓を追うように、その目の前に赤いものが散る。

(炎……!?)

思わず目を見張る楓に応えるように、朗々とした嘉神の声が響いた。

「我が『朱雀の炎』の力、その身を以って知るが良い──」

言うやいなや嘉神は刀を一振りし、地を滑るように楓に迫る。あっという間に、二人の距離が無くなった。再度、嘉神の反りの無い刀が閃く──

「ふっ!」

大地すれすれに下げた刀を大きく振り上げるその挙動は、一振りで大地から朱炎を吹き上げる!

包み込むように襲い掛かってくるそれをギリギリで躱してから、楓は軽く屈み込んで大きく跳躍した。

そして未だ火の粉の散る中、上空から嘉神に切り込む!

ザシュッ!

その肩口に重い一撃を浴びせ、続いて懐に飛び込み手首を捻る動作で、刃を切り上げた。そして後退する嘉神に、楓はさらに追撃を掛けようと踏み込む──寸前に、意識の奥で危険信号が閃く。

(──!?)

その寒気すら感じさせる直感を信じ、楓は即座に後ろに退いた。──刹那、

ゴアッ!

数瞬前まで楓が居た空間を、火炎が焼き払う! それは楓の服の袖を炭化させたが、獲物を捉え切れず霧散した。その先には──平然とこちらに視線を向ける男の姿。

「ふむ……今のを躱すとは、さすがはあの慨世の弟子という事か」

(! 効いて、いない!?)

淀みの無いその口調に、楓は眉を跳ね上げた。ちゃんと手応えはあったし、嘉神の洋服の肩辺りが赤く染まっている──にも関わらず、嘉神は何事も無かったかのように見える。どうやら──今の攻撃のほとんどが、見切られていたらしい。

狼狽を隠せずにいる楓を見て、嘉神はふっとほくそ笑んだ。

「だが……」

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