「ほう……外見も、人格さえも変わるとは、随分と凝った演出だな」
顎に手を当て感心の声を漏らす嘉神に、彼は肩を竦めてみせた。
「そりゃ、どーも。けど、何であんた『俺』の存在を知っていたんだ?」
いたって平然と炎の中から歩み出ながら、彼は──『楓』はぶっきらぼうに聞き返す。
「別に、私は貴様の──別の人格の存在を知っていた訳ではない。私が知っていたのは……貴様のその『力』の存在だ」
「──何の事だ?」
しれっととぼける『楓』に、嘉神はややくぐもった笑い声を上げた。
「くく……とぼけなくても良い。貴様が、私の炎を受ける寸前──その『力』で炎の軌道を逸らして、直撃を避けたのは分かっているつもりだよ」
「そーかい。こういう『力』の使い方は苦手だから正直、上手くいくとは思わなかったけどな。んじゃ、聞き方を変えるか。何で、俺のこの『力』を事を知っていたんだ?」
嘉神の言葉にあっさり折れると、『楓』は右手の刀を一振りした。刹那、青白い稲妻が帯電するようにその刀身を這う。
その様子を見ても、嘉神はさして驚かなかった。むしろ、ある事を確信したらしい。
「簡単な事だ。私と貴様は──似たような存在なのだからな」
「……何だって?」
それを聞き、『楓』も訝るように眉を潜める。嘉神の言っている事は、なんとなくは分かった。だが、それは……
「言い方が悪かったか? ならば単刀直入に言ってやろう」
目付きを険しくさせる『楓』を、揶揄するかの如き口調で嘉神は続ける。
「私がそうであるように、貴様も──『四神』の一人なのだよ」
言い放つ嘉神の言葉に賛同するかのように、蒼い雷が窓の外で一際大きく轟いた──